Artist Interview

#13 森岡成好、森岡由利子

息をするようにつくる、営みの器

和歌山県北東部、高野山の麓に、森岡成好さんと由利子さんは暮らしている。夫妻の通称はシゲさんとユリさん。標高約500メートル、牧草地の斜面を切り拓いたという敷地には自宅とそれぞれの工房、窯場、薪割場、畑などがひろがり、暮らしも仕事もここで営んでいる。

「建物は全部、自分たちで建てました」
驚くようなことをさらっと話すシゲさん。樹齢300年という大きな赤松をドンと軒先に構えた自宅をはじめ、どの建物もセルフビルドとは思えない造りである。柱と梁を組み上げた木造2階建ての自宅室内には中央に大きなテーブルがあって、横を向くとグランドピアノの上で猫が陽を浴びている。のびやかで豊かな暮らしの気配が随所に漂う。

「大窯、見てみますか?」とシゲさん。
丸太を割る薪割場を通ると、うずたかく大量の薪が積み上げられ、大壁のようになっている。その先に現れたのは、長さ10メートルはありそうな大きな窯。幅もゆったりしていて、両側にずらりと焚き口が連なる。個人作家の窯としてはかなりの大きさだ。この大窯で年に2回、シゲさんは長年つくり続けている南蛮焼締めという釉薬を掛けない高温焼成の陶器を焼いている。 「窯焚きに10日間かかるんです。穴窯で部屋は1室。大小合わせたら4000 ~ 5000個くらい焼けます。以前手伝いに来てくれた人が数えてたら、5000個くらいで頭が痛くなったって…(笑)。薪は1回の窯焚きに30トン使います」
大窯の隣にもう一つ、釉薬を掛けたものを焼くための穴窯もある。そして大窯の左奥には白磁を焼くユリさんのアーチ型の窯がある。大窯と並んでいるので小さく見えるが、大窯の総量の5分の2くらいは焼けるというから、こちらもなかなか大きい。まるで製陶工場のような光景である。 「大窯はこれでも小さく造り直したんですよ、20年くらい前に。老後対策として。以前の窯はもっと大きくて、1回の窯焚きで1万点くらい焼けたんです」とシゲさん。

どれだけの熱量と体力を持って焼き物と向き合ってきたのだろうか。どの窯もひとりで焚くわけではないから、ユリさんもしかり。ここに暮らしながら、二人が焼き物をつくってきて40年になる。窯場の周りの棚には、その歩みのように焼締めや釉薬もの、白磁の焼き物が無数に並んでいる。

「魚」。おどけたような表情はシゲさんらしい作風。玩具シリーズで、実際に車輪が回って動かせる。「土はごちゃまぜかな」とシゲさん。
自宅の居間に飾って大切にしている大壺。2005年に行った胴継大壺展で制作した中で、唯一手元に残ったものという。

つづきは書籍『百工のデザイン JAPAN CARAFTを巡って』へ

photo : Keisuke Osumi (panorama),
edit / writing : Noriko Takeuchi (panorama),
Interviewed in September 2023.

森岡 成好もりおか しげよし

1948年、奈良県に生まれる。1971年、種子島で南蛮焼締めと出会う。1973年、和歌山県天野に築窯。1981年、ニューヨークにて個展。大壺がMoMAパーマネントコレクションに。2008年、ネパールヒマラヤに登頂。2010年、沖縄石垣島に築窯。和歌山県天野にて初窯から50年間制作中。国内外各地にて展覧会多数。

森岡 由利子もりおか ゆりこ

1955年、岩手県に生まれる。1978年、立山連峰剱岳の小屋番になる。1980年、焼締め作家に弟子入り。1982年、和歌山県天野にて白磁を始める。中国ヒマラヤに登頂。バンコク(1999年)、韓国(2009年)、ニューヨーク(2018年)、中国・杭州(2021年)、中国・上海(2023年)など、国内外各地にて展覧会多数。