Artist Interview

#03 山口 一郎

猪熊弦一郎に魅せられ、猪熊氏の故郷である香川を拠点に活動を行う画家 山口 一郎さん。大胆で心揺さぶる彼の作品が生まれるアトリエは、のどかな住宅街の一角にある。
アトリエの壁や棚には、自身が描いた絵のほかに、お気に入りのアーティスト作品、展示フライヤー、レコード、玩具まで所狭しと飾られたカオスな空間。

一方、山口さん自身は謙虚で物腰が柔らかく、アトリエの雰囲気とのギャップが印象的だった。ゆっくりと時間が流れるアトリエで、アーティストとしての活動、そして山口さんにとってのLife in Art(日常芸術)について、話を伺った。

画家として活動を始めたきっかけを教えてください。

僕はイラストレーターが最初なんですが、東京にあるセツ・モードセミナーという美術学校に入学して在学中にマガジンハウスの雑誌「オリーブ」の中に掲載するイラストの仕事をしていました。
それから卒業後もイラストレーターの仕事をしていたんですけど、仕事の合間に、「ウナギコンピュータスタジオ」という自分のブログで好きな絵を描くようになりました。浜松出身なので笑。そしたら、その絵が好きといってくれる方からコメントをもらえるようになって。僕もそっちを描いているほうが楽しくなって。それでイラストレーターというより、画家という仕事をしたいと思うようになって、イラストレーターを辞めて実家に帰りました。お金にならないけど、画家という職業をしたいと思い、絵を描くようになりました。

実家では絵を描きながらパン屋でアルバイトをしていました。ただ恐ろしく過酷で、辞めてしまったんです。
それをブログに書いたらブログを読んでくれた香川のファンの方が香川に遊びに来ませんかと誘ってくれて。昔から香川出身の猪熊弦一郎さんが大好きで、ちょうど午前中に猪熊弦一郎美術館のウェブサイトも見ていたところだったので、運命だと思って1週間後には香川に向かっていました。

そしたらその香川の方が、アーティストの卵がたくさん住むトキワ荘的なマンションが一室空いていることを教えてくれて、1週間のつもりが半年間住むことになりました。そこでいろいろな方と知り合いました。
そこで描いた絵を、バッグの作家さんから紹介されていた、東京にあるDEE'S HALL に絵を持っていき、オーナーに絵を気にいってもらえて展示会を開催したのが画家としてのスタートでしょうか。

作品を制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることや心がけていることはありますか?

僕自身シンプルな絵が好きです。描き込んで描き込んでというよりも、削ぎ落した作品が好き。それと空間というか、構図がすごく好きで。今はそれを追求しているんだと思います。あとは、描いたものを自分の部屋に普通に飾れるものを描きたいと思っています。

アーティストとして、生活者として、暮らしにおけるアートの存在をどのようにお考えですか?

画家という立場でいうと、絵を描くことぐらいしかできないので。ほかのことに関しては全くのダメ人間だと思っています(笑)。

アートというのは自分にとって大切なものというのと、アートは人間に限られた、他の動物と違って「飾る」ということができる特別なものだと思うので、贅沢ができるというのはとても楽しいことなんじゃないかと思っています。

自分の作品を購入した方にどう楽しんでいただきたいですか?

自宅に飾られる方が多いと思うんですけど、作品を飾ったら気持ち良い部屋になってくれたらと思いますね。逆に外しちゃうと寂しいなって雰囲気になってくれたら嬉しいなと思うんですけど。

ご自宅にはたくさんのアートを飾られていますが、その中でも特に思い入れのあるアート作品やアーティストを教えてください。

現在17歳の岡山に住んでいる、いわおたまきさんという女の子がいるんですけど、たまきさんの絵の大ファンで。追っかけですね(笑)。僕には無い、自由に愉しく描く、ということでできている人で尊敬しています。あんな風に描きたいなっていう(笑)。
僕自身は今がむしゃらに描いて、あと10年ぐらいしたら本当に自由に描けるようになるんじゃないかなと楽しみにしています。

2021年7月9日(金)からスタートする"Life in Art Exhibition"を、どのように楽しんでもらいたいですか?

今こんな時期でもあるので、目で観て楽しんでくれたら本当に嬉しいなって思うんですけどね、来てよかったって。
僕の作品だけじゃなくてたくさんのアーティストや作家さんの展示もあるので、初めて観る作品で面白い、素敵だと思う作品と出会ってくれたら嬉しいです。

photo : Shinsui Ohara,
interview : Megumi Kobayashi, Tadatomo Oshima
Interviewed in June 2021.

山口 一郎やまぐち いちろう

画家。香川県在住。セツ・モードセミナー卒業後、イラストレーターとして雑誌広告の仕事に携わる。 現在は青山のDEE'S HALLなどで定期的に個展を開催し、海外のギャラリーでも展示会を行う。

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