Interview

#04 coricci

ヨーロッパの蚤の市やアンティークショップに行くと見かけるボタニカルアートは、薬物誌の植物の精密画から生まれた。17~18世紀頃にはイギリスを中心にヨーロッパの貴族や裕福な市民の間で鑑賞用としても愛されている。

coricciの描く植物の絵は、クラシカルなボタニカルアートの雰囲気を持ちながら、現代的なエッセンスも感じられるのが魅力だ。初めてお部屋にアートを飾る人やギフトに選ぶ方が多いことも頷ける。

東京から東へ電車で約一時間、静かな住宅街の一角にアトリエ兼自宅を構えている。一日の始まりは近所のカフェに行きスイッチを切り替え、日中はずっとこのアトリエで制作に没頭する。言葉を丁寧に選びながら、自身の活動のこと、またアートに対する想いを語ってくれた。

アーティストとして活動を始めたきっかけを教えてください。

きっかけというのはあまりなくて、幼いころから描いてきた絵を描くということを大人になっても続けているという、それだけなんですよね。アートとは関係のない仕事に就いてひそかに絵を描いていたという時期もあります。

その後、仕事を辞めてイタリアへ旅行に行ったのですが、歴史あるイタリアの芸術に触れて、ためらわず芸術をやることは格好悪いことではないと思い、絵を描いていこうと決心しました。

暮らしの中にあるアートってさりげないのに活き活きしていて素敵だと思い、日常生活に寄り添うアートを描こうと思い、coricciという名前のアートブランドを立ち上げて、そこから皆さんに作品をみていただく機会が得られるようになってきました。植物画シリーズ「ボタニカル」や、オリジナルの作品、皆様の犬や猫をモデルにしたパートナーポートレート、色々制作しています。

作品を制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることや心がけていることはありますか?

1日の始まりにウォーミングアップとしてスケッチを描きます。何を描くのか、ということはあまり決めずにペンを走らせます。そうすると、例えば、はじめ動物のフクロウを描き出したつもりが、いつのまにか、クマになっていた、ということがあります。描きはじまりとおわりのイメージに、ギャップが生じているんですよね。これは、結構大切な現象だと思っています。

空想しながら描き進めて、作品を練り上げて行く過程で、自然に変化して、生まれて来る「何か」。これが、案外良い味出していたりするんですよね。ものづくりを毎日続けていると、たまに、そんなステキなものが生まれる瞬間に立ち会えたりします。

すこし話は逸れるのかもしれませんが、気のむくまま日帰り旅行に出かけて、その旅先で思わぬ出会いがあると嬉しいですよね。隠れ家的なお店をみつけて。料理も美味しくてそこで、満たされた時間を過ごせたとか。

個人的に、絵を描く理由ってなんだかそういうのと通じるものがある気がします。空想の力を借りて作品づくりをするなかで、思いがけない体験をしたり、観たことのないものに出会える。もちろん自分の作品ではあるんですが、制作のとき、紙の上に浮かび上がってくるものは、どんな風景なのかと、いつも一歩引いて見ている自分がいます。

アーティストとして、生活者として、暮らしにおけるアートの存在をどのようにお考えですか?

アートは空想の産物とも言えるので、正解が見えにくくて、もやもやとしていますよね。中間的で曖昧な存在...ともすれば難解なものなんじゃないかと構えてしまいますよね。だから、あえて誤解を恐れず例えると、アートはコンビニスイーツのようなものであって欲しいという気持ちもあります。身近にあって手に取りやすくて、でもクオリティは確かで皆さんに喜びを与えられるという、そういうものとしての意味で。アート作品を巡って、作り手と飾って下さる方の距離が近い社会だと、なんだか嬉しいですね。

ご自身の作品をどう楽しんでいただきたいですか?

基本的には、自由に好きなように飾っていただければと思います。暮らしの風景を構成するものはたくさんありますよね。家具や植物、陶器や食器、光、香り、それから、アート作品。こだわって選んできたもの、集めてきたもの、それぞれが響きあうことで、その人だけの心地よい空間って作られていきますよね。僕の作品も、どこかで誰かの暮らしの光景の一部に溶け込んでいる。そう思いを巡らすだけで嬉しい気持ちになります。

生活空間の中に一枚の絵を取り入れて、どんなふうに飾ろうかな、と考えることってとても豊かな時間ですよね。絵は、心理的な窓。そこにあるだけで、どこかしら、空気の通りが良くなるような、気持ちが解放されるという側面もあると思います。アートに限らず、何かしらの心の換気をするための窓を持つことは、必要なのかもしれません。

ご自宅にはたくさんのアートを飾られていますが、その中でも特に思い入れのあるアート作品やアーティストを教えてください。

自宅兼アトリエには、ほとんどが自分の描いた作品を飾っています。客観的にどう見えるのかというところが気になるので飾っているんです。自分のお気に入りのアートという話になると、ヨーロッパの特にチェコの絵本が好きで、クヴィエタ・パツォウスカーとかヨゼフ・パレチェクとか、色彩豊かな大胆にデフォルメされた動物が出てくるようなものをたまに手元に置いて眺めています。

2021年7月9日(金)からスタートする"Life in Art Exhibition"を、どのように楽しんでもらいたいですか?

今回の展示に向けて複数の作品を制作しました。そのなかにギリシャの古代の壺や石造式土器とかをモチーフで描いたものがあるんですが、プリミティブで昔からあるようなものに、もう一度作家自身が向き合ってみて、自分が描いたらどうなるんだろうというのがあるんですね。昔あったものをそのまま出すんじゃなくて、現代の僕というフィルターを通して、少しおこがましい話ですが作品として出させていただいて、みなさんがどういう反応をしてくださるのか、とてもワクワクしています。

photo : Shinsui Ohara,
interview : Megumi Kobayashi, Tadatomo Oshima
Interviewed in June 2021.

coricciこりっち

ドローイング、ペットポートレート、プロダクトサーフェスデザイン、版画技法を応用した独自画法を追求。暮らしを彩るための作品を中心に店舗内装のためのアートを制作監修も行う。

過去のインタビュー&特集ページ