Interview

#05 松林誠

温暖な気候と自然に溢れた四国・高知を拠点に活動をおこなう松林誠さん。日常生活の何気ない風景や生き物に目を向け、自由でおおらかに表現する一連の作品は、観る人に生きる喜びを与えてくれる。

移築した古民家に奥様と作品にも登場する猫と暮らす。インタビュー中、楽しそうにスケッチブックに絵を描く松林さんは、穏やかで時に微笑みながら、自身の活動やアートに対する想いを語ってくれた。

作家として活動を始めたきっかけを教えてください。

子供の頃は漫画が好きでした。当時、石ノ森章太郎とか手塚治虫の漫画が大好きで。田舎で絵を描いて、将来は漫画家になれるんじゃないかと思っていました。高校生の時は、漫研に入って漫画家になりたいって漠然と思っていました。美術の大学に行きたいと思って、高校2年生ぐらいから油絵を描き始めたら絵の方が断然、自分を解放できて楽しかったんですね。紙にカリカリ書いて、不器用だったのでペン先からインクが流れ出て漫画の原稿が真っ黒になってマンガじゃそれは駄目だなって思ったんですが、絵は絵具でキャンパスを汚しても気持ち良くて開放感がありました。それで美術大学に行こうって。そこから絵描きですね。

ずっと絵を描いていきたいって思っていたのですが、東京で2年浪人して国立にあった創形美術学校ってところに入りました。そこで今でもやってるエッチングという銅版画に出会ったんです。エッチングに細かい線の重なりを表現する技法があって、小さい頃から漫画家になりたくてカリカリ書いていたのと、エッチングでカリカリ書いたのが結びついて、版画面白いなと思って、それからずっとエッチングをやっています。

その後、学校が提携していたパリのシテデザールに留学会館があって、その場所を利用できる卒業生の賞があったので、コンペと面接を受けてパリに1年行くことになりました。パリでは版画の技術を学んだり、休みの時はヨーロッパを旅行して充実した1年でした(笑)。
帰国したら高知にあるセブンデイズホテルのオーナーから新しいホテルを作るから各部屋に作品を制作して欲しいという依頼がきて。合わせて作品集も制作してくれました。 その作品集がきっかけで、たくさんの方々がその本を見てくれて、依頼をいただくことになりました。

作品を制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることや心がけていることはありますか?

毎日何かしら絵を描いているんですけど、スケッチブックに落書きのように。日記のように、その日あったことや空想していることを描きます。絵を描いていると落ち着くんですよね。呼吸のようなもの。それが版画になったりペインティングになったり絵になっていきます。

アーティストとして、生活者として、暮らしにおけるアートの存在をどのようにお考えですか?

東京で美術学校目指して浪人しているときに、展覧会で、アンリ・マチスの作品「生きる喜び」という大きな作品を観たときに、すごく絵っていいなっていう、救われたような気がして、生きる喜び、そういうものを作品で表現できたらいいなって思います。

ご自身の作品をどう楽しんでいただきたいですか?

自分もそうなんですけど、絵は生活というか空間の中で窓みたいなもんだと思うんです。自分を違う世界に連れて行ってくれたり心が開放されたり、そういう気持ちになれる絵を飾りたいと思うし、そういう絵を描きたいと思います。

ご自宅にはたくさんのアートを飾られていますが、その中でも特に思い入れのあるアート作品やアーティストを教えてください。

つい最近手に入れたフィリップ・ワイズベッカーの作品を一番身近な机の目の前に置いて眺めていて、それもお話ししたいと思ったんですが、2000年にフランスで滞在しながら生活していたときに、パリに着いた次の日にいった蚤の市で、日本の版画家の南桂子さんのエッチングが売ってたんですが、その作品はそれから20年くらいずっと手元に置いてあって、その絵をみると、その時蚤の市で出会った店主の顔とかを思い出したり、パリで住んでたときの工房のこととかを思い出します。この南桂子さんの作品が僕の中のLife in Art だと思います。

2021年7月9日(金)からスタートする"Life in Art Exhibition"を、どのように楽しんでもらいたいですか?

展覧会の場所柄、普段ギャラリーに絵を積極的に見に来る人ばかりじゃないと思うんですけど。そんな人たちが「あれ、なんか絵があっていいな」って思えるような、そんな展覧会がいいなと思います。

photo : Shinsui Ohara,
interview : Megumi Kobayashi, Tadatomo Oshima
Interviewed in June 2021.

松林誠まつばやしまこと

版画家/アーティスト。高知県生まれ。創形美術学校研究科版画課程修了。パリ国際芸術会館に一年間滞在し活動。セブンデイズホテル(高知)のアートワークをはじめ、国内外で展覧会を開催している。