お店の名前を教えてください。また、名前の由来、お店をはじめるきっかけも教えてください。
青森県弘前市の裏路地にある旧杉山醫院にて家具、雑貨の販売と修理を行っています。
店名PPPの由来はアメリカの名店Past Perfectにあやかり、Proofをつけて「昔あった良い物」という意味としました。ただ、ここには書けない話も込めていて、直接尋ねられたお客様にはお話ししています。
お店を始めたきっかけはさまざまあるのですが、2000年から6年間、金沢で工学を専攻し学生生活を送っていた時分に、blind(現NOW)、life is peachyの梨野雅揮さん、SKLOの塚本美樹さんに出会ったこと、地元弘前の洋服屋slowpokeの若城徹土さんに出会ったことが大きな出来事でした。
また、父が元大工の自動車整備士で、幼少期の誕生日プレゼントは赤い工具箱と工具一式でした。私なりに色々作ったり、壊れたものを直したりと手を動かすのは好きでしたが、梨野さん、塚本さんに出会い、ヴィンテージと絶対的なセレクト力に心を打たれ、それまで自分で作っていた物は全て捨ててしまいました。今思えば、捨てることは無かったかとは思いますが。
若城さんからも同じ衝撃、マインドに加え、今までありそうでなかったものを製作していく面白さ、by product(副産物)、条理、探究心、物事の捉え方について深く感銘を受けました。
卒業後、一度はエンジニアの道で社会人経験を積みましたが、脱サラするまでの約14年間その想いを温め、2019年より開業しました。
どのようなヴィンテージアイテムを取り扱っていますか?
北欧、ヨーロッパを中心とした家具、照明やテーブルウェア、花瓶等の雑貨を扱っています。
年代は1940-80年頃の物が多いです。Niels.O.Moller、Alvar Aalto、Pastoe/Cees Braakman、Dux/Sam Larssonの家具、Dieter Ramsのオーディオ、Flos/Achille and Pier Giacomo Castiglioni、Florian Schulzの照明、Arabia、Ittala、Kupittaan savi、Ulrica Hydman-Vallien、KOSTA BODA/Bertil Vallien等のテーブルウェア、グラス、ファブリックを扱っています。
影響を受けたデザイナー、思い入れのあるアイテムなどがあれば教えてください。
私はNOWの梨野さんが当時blindで扱っていた国内外のモダンデザインセレクトの中でも、海外の血を感じる日本のアノニマスな家具がとても好きでした。そして梨野さんに紹介していただいた、中目黒SPiVでの物凄く惹きつけられる数々の有名無名の家具。その時買った「2m×1m程の大きな額縁」は長い付き合いで、今でもお店に飾ってあります。
またTapio Wirkkalaの「グラス、コーヒーカップ」。人柄を知って、職人気質なデザイナーというところも益々惹かれました。建築家では吉村順三が大好きで、「吉村順三図面集1941-1978」をよく眺めています。いつの日か茅ヶ崎の家を見たいと夢見ています。両氏に共通すると思われるのが、昔からある物を大事に丁寧にし、真摯に向き合い、新しいことにも耳を傾けてと当たり前のようで、なかなか出来ないことを淡々とこなしていたことかと思います。
そして、都築響一さんのTOKYO STYLEの表紙の部屋が私の理想でもあります。生活感があって程よいバランスを紹介できるショップを目指したいと思っております。
お店の近くにお薦めのお店や場所があれば教えてください。
弘前はSMITH、slowpoke、SUNDAY SEASIDEがお薦めです。
SMITHは甘過ぎず香ばしい焼き菓子、タルト、アップルパイが感動の美味しさです。
slowpokeはアメリカを中心にして、各国の古着を含めた衣料品全般を取り扱っています。自身でもプロダクトを作り各方面に密かに多大な影響を与えています。
SUNDAY SEASIDEは個人で活版印刷業を営んでおり、デザインから各種印刷まで全ていつもお世話になっています。
今回、Modernism Galleryに出品いただく逸品について教えてください。
Tapio Wirkkala / Tray TW142
第一次世界大戦が始まった翌年の1915年にタピオ・ヴィルカラは生まれました。ヘルシンキにて幼少期を過ごしますが、フィンランド南部の港町ハンコでの原風景が心にありました。作品にはその自然美や幾何学からのエッセンスが、また懐古主義ではなく最新の材料、技術も嬉々として取り入れていました。自ら大いに手を動かし工程に深く入り込んで製作にあたりました。ガラス、シルバー、木工と作品の幅は広く、フィンランドのみならず世界中で活躍し、ミラノ・トリエンナーレ等多くの賞を受賞しています。妻は陶板画家のルート・ブリュックで、朝は妻のために珈琲を淹れ、パンを焼き、彼女の工房まで送ってあげていたそうです。
Trayを製造したKultakeskus社は1897年創業。宝石類、カトラリー等を製造するフィンランド最大手の貴金属メーカーです。元来デザインは重厚、装飾に重きを置き伝統的なものでしたが、1950年代、タピオ・ヴィルカラが参加しモダンデザインに、また製造工程に改革を起こしました。このTrayはその初期の1957年にデザインされたものです。
この逸品との出会い、そしてあなたにとってどこがモダンデザインの逸品なのか教えてください。
2014年、初めて渡ったフィンランドで、私はこのアイテムをはじめとしたタピオの品々に一目惚れしました。そして以前に訪れたドイツの市で買っていたものが悉くタピオのデザインと知ったのはお店を始めたその日でした。 このTrayは縁のシルバー部分は機械成型ですが、ハンドメイドされたものもあり、2種類の製法で同じプロダクトを作成しています。機械を極めれば手仕事の様に、手仕事を極めれば機械の様に。デザインの変遷、製造方法の改革に揺れ動く職人の心模様を汲んだのでしょうか。
また、ファストな現代の流れの中で、モダンデザインとはどの速度で最適化すれば良いのでしょうか。前線で働く方々の気持ちを想像すると溜息が出ます。大戦後、時代は激しくも、現代と同じく当時の流れに思慮したであろう先人の思いに触れたような妄想を抱きます。
今後目指していること、展望などありましたら教えてください。
先日、地域の小学5年生が、弘前卍学という郷土を知る授業の一環で、わざわざ私の店のことを自分達で調べて来てくれました。建物や商品のお話をして、各国の玩具で遊び、少しですが思うことを話せたことがとても嬉しくありました。町の家具屋として少しでも馴染み、彼らが大人になっても記憶の片隅に残るよう、街の一コマでい続けたいと思います。
また地元の新聞社の調査によると、弘前は目を引く、歴史のある面白い建造物が約10年で半分に減っているそうです。街並みの保護や、新しく住みたい、何かを始めたい方のため、地元の職人さんと一緒に建築に携わる仕事も視野に入れて進められればと思います。
〒036-8351 青森県弘前市百石町小路3
tel 090-8787-5352