お店の紹介、名前の由来、お店をはじめるきっかけを教えてください。
長野県東御市に2016年に設立したものや社会の持続可能性にフォーカスしたデザインスタジオです。
家具の修理や張り替えを主軸にモダニズム期初期を中心としたヴィンテージ家具の輸入販売を行っています。
また"oops"というアップサイクルのプロジェクトを主催し企業やジャンルの垣根を超えて活動の場を広げると共に創造性を駆使してさまざまな概念に気づくきっかけになればと思い活動しています。
Ph.D.(フッド)は幼少期から好きで影響を受けた映画BEATELESのイエローサブマリンのアニメ映画のワンシーンよりとっています。
アアルトを始めモダニズムの概念を紐解くと同時に、多くの人に知ってもらおうとヴィンテージ家具の輸入販売を始めました。また自身で修理・張り替え・販売まで一貫して行うことにより有限なヴィンテージ家具の市場を荒らすことなく、市場独占、価格競争や薄利多売から一線を引く方法で販売できないかと模索、考察したことが販売を始めるきっかけとなりました。
2020年には長野市に実店舗となるPh.D. stock “hue”をオープンし、さまざまな催しを企画すると共に、クリエイターたちが集うハブとしても機能をしています。
どのようなヴィンテージアイテムを取り扱っていますか?
1930年代から1950年代のモダニズム期初期、普遍的な価値を持つアルヴァ・アアルトのアイテムを中心に販売しています。
その個体の本質を引き出す補修張替えはもちろんですが、前の使用者の使用痕や幾重にも塗り重ねられたペイント、またそのペイントが経年で剥がれ朽ちているような個体など今までそのものが培ってきた様子をできるだけ肯定していただけるような販売の方法を目指しています。
また、それらを肯定できる概念の象徴やきっかけとして、固定概念にとらわれない特殊な方法を駆使した修理や張り替えの方法を自己表現として展開しています。
お客様のご要望、お持ち込みでも修理、張り替えを承りますが、インポートファブリックを中心に革や毛皮などさまざまな張り替えの素材の提案も可能で、自身で手がけたアップサイクルプロジェクト“oops”の生地やパッチワークなど他にはないサービスもお客様にお喜びいただいています。
また目に見えない下張りと呼ばれる緩衝材などの部分は、その個体当時の張り方の仕様などオリジナルに忠実に再現することも重要視しています。
これまで出会ったなかで思い入れのあるアイテムを教えてください。
アアルトのスツール60をあげたいと思います。
国内でのアアルトの価値付け、市場がまだ確立されていなかった当時、事業としても設立間もなく切羽詰まった状況でしたが、国内の市場より数倍の高値で落札した個体は思い入れがあります。
アアルトの日本と海外との市場価値の差やモダニズムと北欧デザインの概念の一様化、またヴィンテージ市場の経年感への否定的な概念に対して、払拭させたいと思うきっかけになり、さまざまな方と交流が生まれたきっかけとなったアイテムです。
お店の近くにお薦めのお店や場所があれば教えてください。
長野市の実店舗Ph.D. stock “hue”はカフェ「North South East West」、アウトドアショップ「NATURAL ANCHORS」と共に同ビルB1、1F、2Fに2020年に同時オープン。また、3社で運営するイベント兼物販スペース「Lighthouse」もオープンしそれぞれのフォールドがグラデーションのように混じり合う空間となっています。
instagram: @lighthouse_nagano
North South East Westは 松本市のカフェamijokの2号店としてオープン。
さまざまな人が入り混じり、大切にしているコミュケーションから生まれるちょっと嬉しいモノやコトを発信しています。ユーモア溢れるパッケージのオリジナル商品、大人気のマフィンは通販も可能。日常に彩りを与えてくれると当時に日常の尊さに気づかせてくれそうなカフェです。
instagram: @north.south.east.west_2020
NATURAL ANCHORSは「街と人と自然をつなぐ」をコンセプトとした山道具店。
お客様と丁寧にコミュケーションをとるスタイルは命に関わる自然との関わりの中で大事にしている姿勢の表れで、自然をフィールドとしたおしゃべりも実に楽しいものです。インスタも随時更新していてリアルな山や道具の情報は充実していて見ていても楽しく自然の中へ自然と足を踏み入れたくなります。
instagram: @naturalanchors
今回、Modernism Galleryに出品いただく逸品について教えてください。
Alvar Aalto / Hallway Chair 403 with Upcylce Fabric of “oops”
フィンランドを代表するデザイナー、アルヴァ・アアルト。
日本では北欧というカテゴリの中でくくられる印象が強い彼ですが、モダニズムを牽引したデザイナーとして海外では評価されています。
彼のヴィンテージのプロダクトの特徴として機能美や洗練された造形美はもちろん、経年で得た美しさや、前の使用者の使用痕やペイント、朽ちていく様など、ヴィンテージのプロダクトとしては稀なさまざまな要素を肯定できる概念をまとっているのが特徴です。普遍的な価値を持つものやオブジェとして重要な要素と捉えています。
あなたにとってどこがモダンデザインの逸品なのか教えてください。
アアルトのデザインの中でも初期にあたる403チェアは背と座一体のプライウッドで構成されています。
今では当たり前になった技術ですが、1930年代に確立し、美しい造形と機能美を実現したモダニズムを代表する技術と言えます。その隠れた功績にフォーカスする目的で今回は選定しました。
また、張り込んだ生地は私たちが主催するアップサイクルプロジェクト"oops"にて制作したファブリック。協力いただいているさまざまな企業や自社で出る張り替え時の端切れなどを使い、それらを柄のように見立てひとつの生地に仕立てたファブリックです。
当時モダニズム自体も人々の生活の上にあり、それらを改善する目的で確立されていった概念であると捉えています。自分にとって今何をすべきか、それらモダニズム期初期のヴィンテージ家具と向き合うことで影響され、物売りとしてだけではいられない私は一種の表現としてこの様な活動を始めるきっかけのひとつとなりました。
モダニズムを代表する家具にあえて現代の問題を象徴するファブリックを制作しデザイン当時の技法を用いて張り替えることで、問題提起または概念の見直しとなればと思い制作させていただきました。
今後目指していること、展望などありましたら教えてください。
モダニズム期初期のヴィンテージ家具の発掘はもちろん、それらを取り扱うことで培われた知識や感性や技術を元にアップサイクルのプロジェクトを始めさまざまなフィールドで自分たちのクリエイティビティを表現していきたいと考えています。また設立当初から大事にしているお客様がお持ちの家具の修理や張り替えを継続しつつ正しい概念による技術を引き継いでいけるよう日々作業を続け後世に残していきます。
また、さまざまなクリエイターとの新たなコミュケーションが生まれるきっかけづくりとして企画を企て、地域のクリエイションの活性化につなげていければと思っています。
自分たちの活動も含めそれらをさまざまな地方や都内、海外でも発表できるような仕組みづくりもしていこうと思います。
スタジオ 〒389-0407 長野県東御市羽毛山897-1
実店舗 〒380-0813 長野県長野市鶴賀緑町1607-12
tel 050-5309-2102