お店の紹介、名前の由来、お店をはじめるきっかけを教えてください。
前職であった広告業界で数々の創作、企画を立案しながらもクライアントワークゆえの制約や限界の中で真の自己表現ができないと感じ、思い切って離職し個性を発揮できる小売店舗を考えました。
「大人が玩具のような感覚で楽しめる新業態の店舗」という懐古的業態という概念しか持たずに模索するうちに私が生きた20世紀時代のデザインの魅力を再認識し、当時の業界ではまだほとんど価値を認められていなかった日本国内に眠る優れたデザインやアートアイテムを掘り起こしてして販売する業態をスタートしました。
2年の無店舗販売を経て1999年に中目黒に実店舗「Graphio」を出店。
その後、ビジュアル古書とワークファニチャーを扱う2店舗目の「büro-stil」を開店。
2004年、二つの店舗を統合し「Graphio/büro-stil」として店舗を拡大し、2013年、落ち着きのあるロケーションを求めて現在の上原・駒場エリアに移転、店舗創設から23年目を迎え現在に至っています。
店舗名の「Graphio/büro-stil」ですが「Graphio」は私の学生時代からの原点であるグラフィックデザインを指向した(Oriented)ことから行き着いた店舗だからの造語。
「büro-stil」はドイツ語で直訳すると仕事スタイル。過去のクリエイターたちの仕事を紹介する書籍をメインにクリエイティブな空間を提案する店舗をイメージして名付けました。
どのようなヴィンテージアイテムを取り扱っていますか?
先にも触れたように基本的にはノンジャンルですが、「モダンデザイン」というワードを基軸に、プロダクト&クラフトに留まらず広告・グラフィック…などデザインとアートの境界を取り払ったラインナップを玉石混淆に扱っています。
創業時とは違い、全国にヴィンテージ店舗やネットショップが多数誕生した事によって、マーケットは広く一般にまで浸透しました。その結果、ヴィンテージにも流行を意識した露出映えする商品にばかり目が集まり、売り手にもファッションモード的アプローチのセレクトが目立ちます。
オシャレであることは大切だと思いますが、当店のような小規模なパーソナルショップはそれぞれの個性に溢れた独自性を提供することがヴィンテージセレクト最大の魅力だと思っていて、知名度やブランドバリューのあるモノをラインナップするよりも、独自のセンスや視点、「個」の感性を楽しんでもらえる「他には無いモノ」のセレクトを常に意識しています。
影響を受けたデザイナーや、思い入れのあるアイテムを教えてください。
幼少期〜学生時代に刷り込まれた要素が多いのですが、ひとつは歳がわかってしまいますが1960〜70年、生まれ育った神戸エリアで触れていたモダンな文化の影響があります。
周りにはヨーロッパやアメリカの舶来(!?)家具や食器、雑貨、菓子やパンなどの食文化がごく身近にあり、和洋問わずモダンなモノに囲まれて育ったことがあります。
さらに、子供時代に夢中になった海外TVドラマやオモチャ、模型で知ったスタイリッシュな世界観やデザインは今のセレクトの原点になっています。
そして学生時代に知ったVICTOR VASARELY(ヴィクトール バザレリ)と永井一正さんのオプチカルな表現はデザインに本格的に興味を持った大きなきっかけとなりました。
また、資生堂やサントリーなど当時の優れた広告やCMのクリエイターさんには大きな憧れを覚え、今もその足跡であるヴィンテージポスターやマーケティングアイテムは商品として力を入れています。そのほか大阪万博のリアル体験や広告業界で経験したモノ・コトなど、これまで触れてきたデザインにまつわるすべての記憶が礎となったアイテムを選んでいると思います。
お店の近くにお薦めのお店や場所があれば教えてください。
歩いて5分程度のところに「日本民藝館」さんがあります。また、すぐ近くの駒場公園にある旧侯爵前田利為の邸宅及び尊経閣文庫は国の重要文化財にも指定されているモダン建築。日本近代文学館も併設されています。
さらにすぐそばの東京大学駒場キャンパスは元東京帝国大学航空研究所(現JAXA:宇宙航空研究開発機構)があった場所で、国の重要文化財指定の時計台のある学舎13号館や零戦の風洞実験をしたという風洞質のある1号館を始め昭和初期に建設されたモダン建築が並ぶすごい場所です(残念なことにその多くは近く再開発によって解体予定となっています)。
これら昭和初期のモダンな文化が散在する非常に文教度の高いエリアです。
今回、Modernism Galleryに出品いただく逸品について教えてください。
岡本太郎 / 座ることを拒否する椅子 ( FRP製販売用プロダクト試作 )
日本を代表する前衛芸術界の鬼才 岡本太郎は、東京に生まれ東京美術学校に入学、父母の渡欧に同行し1930年からパリに住みました。数々の芸術運動に参加しつつ、パリ大で哲学・社会学・民族学を専攻、ジョルジュ・バタイユらと親交を深めました。帰国し兵役・復員後に創作活動を再開し、現代芸術の旗手として次々と話題作を発表します。1970年には大阪万博でテーマ館をプロデュース。旺盛な文筆活動も行いました。
「座ることを拒否する椅子」は1963年創作の作品で、座り心地のいいモダンデザインの椅子に落ち着くような生き方の否定から発想した作品シリーズです。山歩きでちょっと腰掛ける切り株のように、少しだけ休める椅子が心地よいと感じられる生き方をすべきとのメッセージを込め、生活の中のアートとして創作されました。 本来の作品は信楽焼の陶器製ですが、こちらはFRPで成型されウレタン樹脂塗装されています。内部は中空でサイズ的にも陶器製の作品よりひとまわり大きいサイズであることから、おそらく本来の作品から取った型に樹脂を流し込んで製造されています。
この品の詳細を確実に証明する文献資料はありませんが、1970年前後、岡本太郎氏が万博の準備で来阪するたびにお世話をしていた大阪の大手家具販売店「日三家具(2009年に倒産)」の社主が本人の許可を得て岡本太郎デザインの家具を製造販売したという経緯(過去のテレビ東京の鑑定番組より)と史実に基づき、それと同製品の1点と推測しています。
また、底面内側には成型時のバリが無造作に残り、仕上げされていないことから製品化段階の試作サンプルなどの可能性も考えられます。この時製造された岡本太郎の家具製品は実際には全く売れずすぐに生産は中止され、極めて少数しか造られなかったため、その残存数は陶器製作品よりもはるかに希少。岡本太郎氏のサイドストーリーに新しく加わるような幻の家具。スーパーレアピースです。
この逸品との出会い、そしてあなたにとってどこがモダンデザインの逸品なのか教えてください。
こちらは私がほぼ個人的に所蔵していたモノの1つなのですが、TOKYO MODERNISM 2022のテーマでもあるLife in Artにふさわしく、「芸術はくらしの中でこそ活きる」という考えで創作を貫いた岡本太郎さんのレアピースを選びました。
あえて純粋なアート作品ではなく、歴史の中に埋もれたユニークなストーリーを持った「プロダクトアート」といった存在で、商業的なデザインとアート表現作品をボーダレスに捉えて魅力を伝えてきた当店のセレクトを知っていただく意味でも象徴的なアイテムです。
欧米ハイブランドのスタイリッシュプロダクトだけはではなく、ヴィンテージ品の幅広い魅力、初めて出会う驚きと楽しさなど、オシャレさに頼らない強い力を感じ取っていただける逸品と思っています。
今後目指していること、展望などありましたら教えてください。
モダニズムの時代である20世紀、その後半のデザインや文化をリアルに体感してきた経験と知識を活かした、当店にしか見出せない視点を感じていただける無双のセレクトをさらに展開していきます。
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