WORKSHOP
写真家・大山顕氏、デザイナー・本多沙映氏、建築家・座二郎氏の3人が、参加者と共に銀座の高架下や地下道を巡りました。リサーチャー3名の視点が交わることで、どんな風景が見出されるのでしょうか?
高架下の何気ない装飾から、人工と自然との関係性を読み解きます。
地下や高架下のインフラには歴史と物語が刻み込まれています。
どうしてこんなものが地下道に?そんな疑問から今までとは違う視点が生まれることも。
普段はつい通り過ぎてしまうような地下道でも、さまざまな視点を持つ人と一緒に歩くことで新しい風景を発見できることを実感するワークショップでした。
TALK
後半は「日比谷OKUROJI」にて2時間のトークイベントを実施しました。地下道の魅力と可能性について、お三方の視点から深く広く掘り下げていきました。
トークの一部を抜粋してご紹介します。
地下の新しい地図は可能か?
座二郎:今回改めて感じたのは、地下道の地図の不思議さです。現在の地図では、実際の地下空間の利用の仕方や体感に沿っていない気がして、もっとやりようがあるのではないかと思っているんです。
大山:鉄道の路線図は、地図ではなくダイヤグラムで描かれています。実際に鉄道を使う人にとっては、実際の距離や位置よりも、何時にどこに到着するかが重要だからです。地下道も同様に、地上の地図に依存しない描き方が可能かもしれない。しかし、何をダイヤグラムにすればよいのか。まだ我々は地下道を深く体験できていないのかもしれない。
本多:地下の深さを表現できる地図ってできるのかなって考えちゃいます。インフォグラフィックでどう表現するかも。何か地下道ならではのビジュアルイメージがあると良いのかもしれません。
大山:あの帝国劇場の柱や「駅モレ」をランドマークにするのはよい方法かもしれない。A7出口付近に湧き出る地下水は、管理者としては迷惑なものだけど、それをランドマークにすると見え方が変わる。
座二郎:あの地下水は「A7の滝」と名付けて、名所にすれば面白い。地下道にはそういったスポットが無数にありますね。
地上と地下のもつれ
大山-地下へ入る出入口も重要なスポットですね。地上と地下の論理が衝突するところが出入口。地下空間は地上のさまざまな事情を受け止めているため、不思議な構造になっている。
本多:「駅モレ」も地上の雨が地下に影響を与えていますね。駅モレを対策するためのテープやビニールのビジュアルが面白い。つくった人達の思考や物語をそこから感じます。数年前と比べテープ使いがうまくなっている気がしています。「このタイプの駅モレ対策はこの人!」みたいな、達人が生まれているのかもしれません。
座二郎:もしかしたら「駅モレ課」などできているかも笑。
大山:地下空間の面白さは、内と外の関係にもあると思います。地下道には空調があるが、その中にあるキオスクにも熱を地下道に出すための排気口がある。つまり、キオスクにとって地下道は外なんです。まるで地下道は宇宙コロニーのようだと思いました。地下は外側がないために、ウチと外の関係がどんどん変化していく。
本多:壁の外が土である、というのも駅モレから感じますね。むき出しの補修テープも、地上ではきっとこんな使い方はしないはず。
地下空間の空きスペースのポテンシャル
大山:地下の面白さは空きスペースにもありますね。銀座の地下道は何かしたくなるスペースが沢山ある。
本多:地下道は公共空間とプライベート空間のあわいを感じる。そこに何かしたくなるんです。
座二郎:例えば、偽物の証明写真機を設置したり、壁に擬態した扉を付けてそこで暮らすなど、妄想は広がりますね。
大山:昔、銀座の地下駐車場を舞台にしたロードムービーの構想をしたことがあるんですが、今でも撮りたいと思っています。
座二郎:それはすごく面白い!ぜひやってみてほしいです。
地下空間の人工と自然
本多:人工植物は、地下で沢山使われていると思っていましたが、葉についた埃を取るのが大変だったり、メンテナンスが難しいので、最近は設置されなくなってきたと聞きました。人工植物の使われ方や流行をみると、人の自然観や、自然に何を求めているかが見えてくる。最近は枯葉を模したフェイクグリーンがあり驚いています。
大山:本来は枯れない植物が欲しいがためにつくられた人工植物だけど、よりリアルを求めた結果、枯れているようなデザインを施すのは、考えてみるととても変ですね。
本多:今回は、駅モレの水質調査をしてもらったんですが、帝国劇場のところが飲料水として使用できるくらい水質がよかったんです。例えば、駅モレを地下の湧水として見立ててみるのも面白いかもしれません。地上でしか生きてこなかった人類が地下に住むようになり、そこで地下道の湧水を飲むという、そんなプリミティブな体験が地下道でできるかもしれない。漏れた水をうまく生かして地下道を緑地化していくというプロジェクトを考えるとかも可能性がありそうです。
座二郎:地下の自生するコケや植物を見た時には感動しました。あの姿をみるとナウシカを思い出します。
地下空間はユートピアか?
大山:作家の星新一が「これからは地下にユートピアができるんだ」と書いているのを読んだことがあります。高度成長期の時代です。そういった意味で、僕は座二郎さんを星新一の後継者として捉えているんです。
座二郎:今回描いた「東京アンダー・グラウンディング」のイラストは、今回のリサーチのエッセンスを詰め込んでいます。地下は雨も降らないし気温も一定していて、ある種、理想的な空間でもある。しかし、建築サイドからみると、地下空間をつくるのは本当に大変なことだということもわかる。
大山:かつて、ビルの屋上と地下に夢が託された時代があった。コルビジェは屋上庭園に夢を見ていたし、当時の未来予想図にはビル間を空中で繋げた様子が描かれている。ビルの100m規制を続けていたら屋上にもう一つの地上ができていたのかもしれない。それが挫折した中で、星新一は地下にもう一つのユートピアをみていたのでしょう。
座二郎:1960年代につくられた国立国会図書館やパレスサイドビルの地下には広大な地下空間がある。地下に夢を見ていた時代ですね。
大山:今回のリサーチは、そんなかつてのユートピアの面影を再発見する機会だったのかもしれない。しかし、現代はそこから水や植物が漏れ出てきている。
本多:私は、その地下に漏れ出る水や茂る植物に、これからの地下道の未来があるのかも知れないと思っているんです。
質疑応答
他の地下空間との対比について
質問者:私は大阪育ちなのですが、今回のワークショップで梅田の地下街との違いに驚きました。二つの地下空間の違いについてご意見いただければ。
大山:確かに梅田の地下はお店だらけで、いわゆる「地下街」。対して銀座の地下は、まさしく「地下道」。形態も役割も違っていると感じます。もし大阪でもResearchプロジェクトが行われるのであれば、銀座と梅田の地下の違いを浮かび上がらせると面白いかもしれませんね。
リサーチャーの視点について
観客:今回はいつも歩いている地下道だったにも関わらず、「ぽんたの広場」の存在に初めて気付いたり、新しい視点で見られて楽しかったです。みなさんは普段どのような視点で世界をみているのでしょうか?コツなどあれば教えてほしいです。
座二郎:自分はいつも「外国を歩いているような視点」で目の前の風景を見ていたいと思っています。
本多:今回のように、誰かと一緒に歩くことで新しい視点が得られて、それによって自分の視点に改めて気づけたのが良かったですね。
大山:人は誰と一緒にいるかで考えることも話すことも変わります。「銀座アンダー・グラウンディング」は、その実践として2人1組で3回実施しました。具体的なアドバイスとしては、思ったことを素直に話ができる人と歩くこと、そして、写真を撮ることでしょうか。
半日と長い時間ではありましたが、充実したワークショップとトークでした。みなさんも銀座の地下道をいつもと違った視点で歩いてみませんか?